私が銀行の融資担当だった頃、融資審査に通らなかった中小企業のオーナーから「ファクタリングも検討していますが、審査が厳しいと聞いて躊躇しています」という相談をよく受けました。
この「ファクタリングの審査は厳しい」という言葉の裏には、多くの誤解や不安が隠れています。
実際、ファクタリングは銀行融資とは全く異なる審査基準で運用されているのです。
私自身、日本政策金融公庫での勤務経験も含め、約10年間金融機関で企業の資金調達を支援してきました。
その経験から言えるのは、ファクタリングは正しく理解すれば、多くの中小企業にとって有効な資金調達手段になり得るということです。
「審査が厳しい」と聞いて諦めてしまう前に、実際にどのような審査が行われ、どう準備すれば良いのかを知ることが重要です。
本記事では、ファクタリング審査に関する誤解を解き、実務経験に基づいた対策法をご紹介します。
資金繰りに悩む経営者の方々が、新たな選択肢としてファクタリングを前向きに検討できるようになれば幸いです。
ファクタリング審査の基本知識
ファクタリングとは?──要するに「売掛金の早期資金化」
ファクタリングとは、企業が保有する売掛金(まだ支払いを受けていない請求書)を専門業者に売却して、すぐに現金化する金融サービスです。
通常、企業間取引では30日から120日の支払いサイトが設定されていますが、ファクタリングを利用することで、その支払い期日を待たずに資金を手に入れることができます。
銀行融資との最大の違いは、「借入」ではなく「売却」という点です。
融資は返済義務が生じる負債ですが、ファクタリングは売掛金という資産を売却する取引となります。
これにより、財務諸表上の負債比率は増加せず、資金調達が可能になるのです。
中小企業がファクタリングを検討すべき主な理由は以下の3点です。
- 銀行融資と比較して審査のハードルが低い
- 資金化までのスピードが早い(最短即日も可能)
- 負債を増やさずに資金調達ができる
特に創業間もない企業や、一時的な資金不足に陥っている企業にとって、有効な選択肢となります。
ファクタリング審査で見られるポイント
ファクタリング会社が審査で重視するのは、主に以下の要素です。
- 売掛先の信用力:支払い能力が高い大手企業や公的機関であるほど審査は通りやすい
- 取引の実在性:実際に商品やサービスの提供が完了していること
- 取引の継続性:一度きりでなく、継続的な取引関係があること
- 債権の譲渡可能性:債権譲渡禁止特約がないこと
銀行融資と大きく異なるのは、自社の決算書や信用情報よりも、「売掛先の支払い能力」に重点が置かれる点です。
具体的な審査フローは以下のようになります。
- 申込書と必要書類の提出
- 売掛先の信用調査
- 取引の実在性確認(請求書や契約書の確認)
- 審査結果の通知と買取価格の提示
- 契約締結と資金化
審査期間は早ければ即日、通常でも数日程度と銀行融資(1週間~1ヶ月)と比較して短期間で完了します。
実務ポイント:売掛先が上場企業や官公庁である場合、審査通過率は格段に高くなります。申込時にはこれらの取引先の売掛金を優先的に検討しましょう。
「ファクタリングの審査は厳しい?」と感じる理由
誤解1:「銀行並みに厳しい審査をされる」
多くの経営者がファクタリングを検討する際、銀行融資と同じ基準で審査されるという誤解を持っています。
これは根本的な認識の誤りです。
銀行融資の審査は、自社の返済能力に焦点を当てるため、財務状況や信用力が最重要視されます。
貸借対照表や損益計算書の精査、資金使途の確認、担保評価など多角的な分析が行われます。
一方、ファクタリングの審査では、主に売掛先の支払能力と、取引の実在性が重視されます。
なぜなら、ファクタリング会社にとっての実質的なリスクは「売掛先が支払わないこと」だからです。
実際の審査では、以下の点が主に確認されます。
- 売掛先の信用調査(売掛先の規模や業績)
- 取引の実在証明(契約書、納品書、請求書の確認)
- 過去の取引実績(継続的な取引関係の有無)
銀行融資で重視される「自社の財務状況」や「担保」は、二次的な要素に過ぎません。
誤解2:「信用情報が悪いと断られる」
「信用情報に傷があるとファクタリングも利用できない」と思い込んでいる経営者も少なくありません。
しかし、この認識も正確ではありません。
確かに、ファクタリング会社は申込企業の信用情報をチェックします。
しかし、その目的は主に「詐欺的行為を見分けるため」であり、多少の遅延履歴があるからといって、即座に断られるわけではありません。
私が融資担当だった時代、銀行融資は断らざるを得なかったものの、ファクタリングでは問題なく資金調達できたケースを数多く見てきました。
特に以下のような状況では、銀行融資は難しくてもファクタリングなら可能なケースが多いです:
- 赤字決算が続いている
- 税金の滞納歴がある
- 創業間もなく財務基盤が弱い
- 借入金の返済に遅延歴がある
ただし、以下のケースは審査が厳しくなる可能性が高いので注意が必要です。
- 詐欺的行為の前歴がある
- 売掛先との取引実績が乏しい
- 売掛金の二重譲渡リスクがある
よくある不安と解決方法Q&A
Q1:必要書類が多くて大変では?
A: 実際に必要な書類は銀行融資よりもはるかに少なく、基本的には以下の書類だけで申し込みが可能です。
- 会社の基本情報(登記簿謄本、印鑑証明書)
- 取引の証明書類(請求書、契約書、納品書)
- 通帳のコピー(入金確認用)
- 本人確認書類(代表者の身分証明書)
銀行融資では通常要求される「決算書3期分」「事業計画書」「資金繰り表」などは、多くのファクタリング会社では不要です。
ここがポイントです: 事前に書類をきちんと整理しておくことで、審査はさらにスムーズになります。
特に請求書と納品書の整合性、契約書の有効期限などをチェックしておきましょう。
不備があると追加確認が入り、資金化までの時間が延びる可能性があります。
Q2:売掛先が倒産した場合、どうなるの?
A: これはファクタリング契約の種類によって大きく異なります。
- 2社間ファクタリング(償還請求権あり):売掛先が倒産した場合、ファクタリング会社から資金の返還を求められます。
- 3社間ファクタリング(償還請求権なし):売掛先の倒産リスクはファクタリング会社が負うため、返還義務はありません。
当然ながら、償還請求権のないファクタリングの方が手数料は高くなりますが、リスクヘッジの観点では有利です。
売掛先の業績に不安がある場合は、多少手数料が高くても3社間ファクタリングを選択することをお勧めします。
実例: 私のクライアントで建設業を営むA社は、大手ゼネコンの突然の経営危機に直面しました。A社は3社間ファクタリングを利用していたため、5,000万円の売掛金が回収不能になったにもかかわらず、自社の資金繰りへの影響を最小限に抑えることができました。
Q3:ファクタリング手数料はどこまで交渉できる?
A: ファクタリング手数料は基本的に交渉可能ですが、交渉力を高めるためにはいくつかのポイントがあります。
標準的な手数料率は月利1~10%程度ですが、以下の条件があれば交渉の余地は広がります:
- 取引金額が大きい:100万円より1,000万円の方が交渉しやすい
- 売掛先の信用力が高い:上場企業や官公庁向け売掛金は低い手数料で交渉可能
- 継続的利用を前提とする:単発ではなく定期的な利用をアピールする
- 複数社から見積もりを取る:競合見積もりがあれば価格交渉が有利に
交渉のカギ: 私の経験では、最初の提示額からは平均で2~3%程度の引き下げが可能です。
ただし、あまりに低い手数料を強引に要求すると、別の形で手数料が上乗せされたり、審査が厳しくなったりすることもあるため、無理な交渉は避けるべきです。
- 初回よりも2回目以降の方が交渉しやすい
- 季節変動がある業種は繁忙期に備えて閑散期から関係構築を
- 手数料だけでなく、入金スピードなど条件全体で交渉を
ファクタリングを成功に導くポイント
悪質業者を見極めるには?
ファクタリング市場の拡大に伴い、残念ながら悪質な業者も増加しています。
私が融資担当だった頃、悪質業者によって金利負担が膨らみ、経営危機に陥った会社を何件も見てきました。
信頼できる業者を見極めるためのチェックポイントをご紹介します。
警戒すべき業者の特徴:
✓ 金融庁や財務局の登録がない
✓ ホームページに会社概要や代表者名が明記されていない
✓ 極端に高い手数料(月10%超)を請求する
✓ 契約内容について詳細な説明がない
✓ 事前審査料や申込手数料を要求する
特に「買取保証」をうたいながら、実質的には融資と変わらない契約を持ちかける業者には注意が必要です。
🔗関連リンク
審査が甘いファクタリング10選【審査通過率85%以上】
「ファクタリング」と称した違法な高金利融資の見分け方:
- 元本と利息が明確に分離されている場合、それは「融資」の可能性が高い
- 償還請求権が強く設定されている場合、実質的には担保付融資と同等
- 売掛金額と関係なく、返済額と期間が固定されている場合は要注意
【契約書確認のポイント】
確認事項 | 正規のファクタリング | 高金利融資を偽装したケース |
---|---|---|
取引名称 | 「債権譲渡」「売掛金買取」 | 「融資」「貸付」の表現あり |
金銭の性質 | 「買取代金」「譲渡対価」 | 「貸付金」「融資金」 |
返還条項 | 限定的か不要 | 広範囲な返還義務あり |
成功事例と失敗事例から学ぶ
<成功事例>季節変動を乗り切ったアパレル卸B社
アパレル卸売業を営むB社は、シーズン前の仕入れ資金確保に常に苦労していました。
銀行融資は限度額に達していたため、新たなシーズン商品の仕入れが困難な状況でした。
B社は大手アパレルチェーン向けの売掛金をファクタリングすることで、以下のメリットを享受できました:
- 仕入資金を適時に確保でき、新商品の納入遅延を防止
- 早期納入による仕入先からの割引特典獲得
- 安定した資金繰りによる経営計画の精度向上
特に効果的だったのは、あらかじめファクタリング会社と年間契約を結び、必要に応じて機動的に資金化できる体制を整えたことです。
<失敗事例>手数料負担が重荷になったIT開発会社C社
IT開発を手がけるC社は、大型プロジェクトの受注に成功しましたが、開発期間中の人件費支払いに苦慮していました。
売上は発生するものの、入金は検収後という条件だったため、ファクタリングを利用することにしました。
しかし、以下の点で問題が発生しました。
- 複数回のファクタリングにより手数料負担が増大
- 手数料の比較検討を怠り、市場平均より高い料率で契約
- 開発遅延により予想以上に資金が必要となり、負担が雪だるま式に増加
この事例から学べる教訓は、、
- 事前に資金計画を綿密に立て、ファクタリングの利用回数を最小限にする
- 複数社から見積もりを取り、手数料を比較する
- 開発案件ではマイルストーン支払いへの契約変更交渉も検討する
手数料コスト削減策:
- 複数の売掛金をまとめて譲渡する(個別譲渡より効率的)
- 取引実績を積み、徐々に手数料率の引き下げ交渉を行う
- 入金サイクルを考慮し、最適なタイミングでファクタリングを実施する
まとめ
ファクタリングの審査は「厳しい」というよりも、「銀行融資とは異なる視点で評価される」と理解すべきでしょう。
売掛先の信用力と取引の実在性が重視されるため、自社の財務状況に課題があっても、優良な取引先との取引があれば資金調達の可能性は十分にあります。
本記事でご紹介した対策を実践することで、ファクタリングを効果的な資金調達手段として活用できるはずです。
特に重要なポイントを振り返ると、
- 銀行融資とファクタリングは審査の着眼点が根本的に異なる
- 売掛先が優良企業であれば審査通過率は高くなる
- 信用情報に多少の問題があっても、取引の実在性が確認できれば利用可能
- 悪質業者を見分けるための知識を持つことが重要
- 手数料交渉と適切な利用計画で、コストを最適化できる
私が銀行員時代に見てきた多くの中小企業経営者は、ファクタリングという選択肢を知らなかったか、誤解していたために、資金調達の機会を逃していました。
ファクタリングは万能の資金調達手段ではありませんが、状況によっては非常に効果的なツールになり得ます。
特に、成長フェーズにある企業や季節変動のある業種では、銀行融資と併用することで、より柔軟な資金調達が可能になるでしょう。
資金調達の選択肢を増やすことは、企業の危機対応力と成長力を高めることにつながります。
ぜひファクタリングを資金調達の選択肢の一つとして、前向きに検討してみてください。